肩の痛みは肩そのものに原因があるとは限らない

―肘・こめかみ・肩甲骨・腰との関連性について―
肩関節に痛みを訴える患者は多いが、その原因が肩そのものにあるケースは意外と少ない。
実際には、肘・こめかみ(顎)・肩甲骨・腰といった、肩以外の部位に原因が潜んでいることが少なくない。
肘のねじれが肩関節に与える影響
肘関節のねじれや硬さは、上腕筋群を介して肩関節にストレスを与える。
とくにデスクワークやスマートフォンの使用により、前腕が内旋し続けることで肩関節の可動域が狭まり、挙上時の痛みや違和感を生じさせる原因となる。
こめかみの緊張と肩の慢性痛の関連
側頭筋や咬筋の過緊張は、側頸部を介して僧帽筋上部や肩甲挙筋に影響を及ぼす。
噛みしめや歯ぎしりなどの習慣がある場合、顎から肩にかけての筋連鎖が緊張し、肩の可動性を阻害する要因となる。
肩甲骨の機能低下と肩関節リズムの破綻
肩関節の運動は肩甲骨との協調運動(肩甲上腕リズム)に支えられている。
しかし、巻き肩や猫背などによって肩甲骨の可動性が低下すると、このリズムが破綻し、肩関節単独での無理な動きを強いられる。結果として痛みや機能障害を引き起こす。
腰部・骨盤帯の不安定性が肩に及ぼす影響
骨盤の歪みや体幹筋群の弱化は、全身のバランスを崩し、肩関節の安定性に影響を与える。
特に腹圧が保持できない状態では、肩や腕に過剰な緊張を強いられ、長期的には肩の構造的な破綻につながる恐れがある。
痛みの本質を見抜くためには、全体像を診る視点が必要である
肩関節の痛みを改善させるには、「肩だけを治療する」という局所的な視点では不十分である。
むしろ、身体全体のバランスと連動性を見極めたうえで、原因部位に対して適切な処置を施すことが、根本的な解決につながる。
このような全体観に基づいたアプローチこそが、真の治療に他ならない。